印刷業の工程管理、各部署が真面目でも最終工程が残業になる理由

商談に同席していたジムリンは、帰り道でジョーさんにこうこぼした。

今日は、印刷会社さんとの商談に同席したんですけど……各部署はちゃんと計画を立てているのに、なぜか最終工程だけ毎回残業になっているらしいんです

それ、部署ごとにちゃんとやっていれば、工場全体もうまく回りそうなものだけどね

ボクもそう思ったんですけど、実はむしろ逆で……各部署が自分の持ち場をちゃんと守って、機械もできるだけ止めないようにしているからこそ、工場全体としてはうまくいかなくなっていたらしいんです

というわけで、今回は実際の商談で聞いた声をもとに、意外な結論までお届けします。

各部署はちゃんと計画を立てているのに、なぜか最終工程だけが残業になる

月末が近づくと、決まって最終工程だけが残業になる。そんな状況に心当たりはないだろうか。工程管理がうまくいっていないのではと感じつつも、どこに手を打てばよいのか分からないまま日々を過ごしている担当者は少なくない。

各部署はそれぞれ、自分の持ち場の計画をきちんと立てている。サボっているわけでも、いい加減にやっているわけでもない。それなのに、なぜか工場全体で見ると計画通りに進まず、最後にしわ寄せが来る。

「今、各部署でExcelで予定を作っています。それで共有する形になっています」

これは、ある印刷会社の生産管理担当者が語った言葉だ。各部署が個別にExcelで小日程計画を立て、それを共有するという運用は、決して珍しいものではない。むしろ、多くの現場で当たり前に行われているやり方だろう。

しかし、この「各部署がそれぞれちゃんと計画を立てる」という一見まっとうなやり方こそが、実は工場全体の計画を崩す原因になっていることがある。

印刷業の分業体制と、ボトルネックになりやすい封入封緘

この印刷会社は、受注生産(リピート受注が約7割)で、月間の新規製造オーダー数は500〜1000件にのぼる。実製造リードタイムはわずか2〜3日と短く、工程数は6〜10工程。代表的な工程フローは「印刷→印字→折り加工→封入封緘→仕分け・出荷」である。

生産管理は工程設定までを担当し、各部署(工程グループ)がそれぞれExcelで小日程計画を個別に立てる分業体制を敷いている。これ自体は、印刷業に限らず製造業全般の受注生産・多品種少量生産の現場で広く見られる、ごく一般的な運用だ。

問題は、工程ごとに設備台数(処理能力)に差があることだ。印刷・印字といった前半工程は設備台数に余力があるのに対し、封入封緘は手作業中心で処理能力が低い。つまり、封入封緘がこの工場のボトルネック工程になりやすい構造を、もともと持っている。

工程管理|印刷業の工程フローと処理能力の差によるボトルネック工程(封入封緘)の発生構造

自社のボトルネック工程がどこかを見極める方法は、工場のボトルネック工程はどこ?人や機械に注目してタスクの滞留点を見つけようで詳しく解説している。

「各部署がちゃんと計画を立てれば工場全体もうまく回る」が、実は工場全体を乱す原因

各部署が自分の持ち場をきちんと管理すれば、工場全体もうまく回るはずだ。そう考えるのは自然なことだろう。

しかし実際には、この考え方こそが工場全体を乱す原因になっていることが多い。

部署ごとの機械稼働率ではなく、工場全体のボトルネックを基準にする

「部署ごとの機械稼働率を基準にした計画」を立てると、各部署は自分の工程の機械をできるだけ止めないように、処理能力いっぱいまで計画を詰め込もうとする。一見、効率的に見えるやり方だ。

だが本当に必要なのは、「工場全体のボトルネックを基準にした計画」である。工場全体の生産量を決めるのは、最も処理能力の低い工程、つまりボトルネック工程のペースだからだ。各部署が自部署の稼働率を優先するほど、このボトルネックのペースは守られなくなっていく。

本当に求めているのは「工場全体で守るべき一点」を全部署が意識できる状態

部署ごとの連携をもっと密にすれば解決する。多くの人はそう考えるかもしれない。

しかし、実際にこの工場が本当に必要としていたのは、部署間の連携の仕組みそのものではない。工場全体で「ここだけは絶対に守るべき一点」があり、それをすべての部署が意識できている状態、それこそが求められていたことである。

工程数が多いほど、ボトルネックの共有が連携より先に必要になる

この印刷会社のように工程数が多く(6〜10工程)、各工程で設備台数(処理能力)が異なる現場ほど、この違いが顕著になる。

いくら部署間の連携を密にしても、そもそも「工場全体で守るべきボトルネックがどこか」を全部署が共有できていなければ、連携そのものが意味をなさない。連携の仕組みを整備する前に、まず「どこを守るべきか」という一点を共有することが必要になる。

自部署の計画をちゃんと立てるだけでは、ボトルネックは守れない

各部署がそれぞれ「自部署の計画をちゃんと立てる」だけでは、この潜在ニーズには届かない。前半工程が自部署の処理能力を基準に「作れるだけ作る」計画を立ててしまう限り、ボトルネックを守れない構造は変わらないからだ。

この構造を変えることの難しさについて、生産管理担当者はこう語っている。

「難しいのはですね、前後工程との調整が必要なんですね……そうすると人の調整力がものすごく左右されてしまうというところがあって、そこがすごく難しいところだと思います」

生産管理は工程設定までを担当し、決裁権は持たないことが多い立場でありながら、実際に工場全体の計画を機能させるには、前後工程との調整が欠かせない。この調整が担当者個人の交渉力・調整力に依存してしまうこと自体が、部署ごとの計画運用が抱える根本的な弱さだ。

属人化した生産スケジュールの標準化に悩んでいる場合は、組立系製造業の属人化を防ぐ生産スケジューラは、どこにあるのかも参考にしてほしい。

前半工程の「作れるだけ作る」計画が、封入封緘を滞留させていた

ここで、複数の商談を合成した典型例として、よくある改善の過程を紹介したい。

前半工程(印刷・印字など)は設備台数に余力があるため、担当者は「せっかく機械が空いているのだから」と、処理能力の限界近くまで計画を詰め込む。悪気があるわけではなく、むしろ「自分の持ち場を効率よく回そう」という真面目な姿勢の結果である。

ところが、この前半工程の計画が積み重なると、後工程である封入封緘(手作業中心でもともと処理能力が低い)に、処理能力を超える仕掛品が次々と送り込まれてしまう。

工程間の調整は日々の細かなやり取りの積み重ねで、変化が見えにくい。仕掛品は封入封緘の手前でじわじわと積み上がっていき、最終的に仕分け・出荷という最終工程で帳尻合わせと残業という形になって、初めて表面化する。

工程管理|前半工程の計画詰め込みが封入封緘に仕掛品の滞留を生む流れ

機械を止めるという決断

このような工場で実際に踏み出されている転換はシンプルで、前半工程の計画を、自部署の処理能力ではなく、封入封緘のペースを基準に組み直すというものだ。

これは、前半工程の担当者にとって決して楽な選択ではない。機械が動かせる状態にあるのに、あえて手を止めて次の受注に着手しないという判断は、「非効率なのではないか」「サボっているように見えるのではないか」という迷いを伴う。

それでも前半工程の担当者は、封入封緘のペースを超えて仕掛品を送り込まないことこそが、工場全体としては正しい選択だと判断した。転換後、前半工程では計画上あえて機械を止め、封入封緘にあわせて仕掛品を送り出すペースを調整する場面が生まれるようになった。

ボトルネック基準の計画への転換で、最終工程への負荷集中が緩和された

この転換を経て、工場の状態は次のように変化している。

部署ごとの計画からボトルネック基準の計画への変化

項目 Before(部署ごとの機械稼働率基準) After(ボトルネック工程基準)
計画の基準 各部署が自部署の処理能力で計画 全部署が封入封緘(ボトルネック)のペースで計画
前半工程の動き方 機械を止めずに「作れるだけ作る」 あえて機械を止め、ボトルネックに合わせる
仕掛品の状態 封入封緘の手前で滞留しやすい 工程間の滞留が減り、流れやすくなる
最終工程の状態 帳尻合わせと残業が慢性化 帳尻合わせが減り、負荷が安定しやすくなる
前後工程の調整 担当者個人の交渉力・調整力に依存 「ボトルネックを守る」という共通基準が、部署間の合意形成の土台になる

工程管理|部署ごとの計画からボトルネック基準の計画への転換によるBefore/After比較

**機械を止めないことより、ボトルネック工程を守ることを優先する。**この優先順位の転換こそが、部署ごとに計画を立てている限り実現できなかった全体最適への一歩である。

「工場全体を見えるようにしたい」という声は、生産管理担当者からもよく聞かれる悩みの一つだ。部署ごとの計画が「守るべき一点」でつながることで、この見えにくさそのものが解消されていく。前後工程との調整も、個人の交渉力だけに頼らず、共通の基準に沿って進められるようになる。

この転換は、既存の運用を全部作り直すような大がかりなものではない。まずは「うちのボトルネック工程はどこか」を関係部署で確認し、その工程のペースを基準に計画を見直すところから着手できる。

GROW工程管理でできること

今回のケースだと、GROW工程管理のなかでも、ガントチャートで負荷の状況を確認できる機能が、特に効いてきそうです

GROW工程管理は、各工程の受注状況をガントチャートで確認でき、どの工程に仕掛品が積み上がっているか、どの工程が常に負荷100%近くになっているかを、担当者が一目で把握できる仕組みを持っている。ボトルネックがどこかは、この負荷表示を見れば全部署が同じ画面で確認できる。

また、受注情報をもとに、各工程の余力を踏まえて占有率100%を超えない範囲でなるべく早い日程を自動で組み立てる機能もあり、部署ごとに個別のExcelで計画を立て直す手間そのものを減らせる。

ボトルネックが可視化され、日程作成の手間も減ることで、前後工程との調整が担当者個人の交渉力だけに左右されにくくなる。

より詳しい機能については、以下のページで確認できる。

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